京都大学のロゴ 第Ⅲ問 和文英訳 京都大学 2023
京都大学 2023年度 前期日程 · 英語

第Ⅲ問 和文英訳
解答と解説

人への親切が予想どおりの見返りを生むとは限らず、むしろ善意からしたことが思わぬ形で返ってくるという随筆です。「損得勘定で動く」「便宜を図る」「コロッと忘れる」「恩に報いる」を、辞書の難しい一語に頼らず、何を期待し、何をして、どれほど感謝したかという節に開けるかで差がつきます。最後のことわざも直訳だけで終えず、ここまでの論理につながる形で意味を残す必要があります。

難易度 ★★★★ 目安 25分 和文英訳 テーマ 損得を離れた親切と巡る恩
1

問題

第Ⅲ問 次の文を英訳しなさい。

人間,損得勘定で動くとろくなことがない。あとで見返りがあるだろうと便宜を図っても,恩恵を受けた方はコロッと忘れているものだ。その一方で,善意で助けた相手がずっと感謝していて,こちらが本当に困ったときに恩に報いてくれることもある。「情けは人のためならず」というが,まさに人の世の真理を突いた言葉である。

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この問題で見られている力

  • 「損得勘定」を what we may gain or lose と具体的な中身に開けるか
  • 「便宜を図る」を do someone a favor という平易な動作で表せるか
  • 見返りを期待する親切と、善意からの親切の対比をつなぎ語で明示できるか
  • 「コロッと忘れているものだ」の一般的傾向と意外性を may completely forget で残せるか
  • 「情けは人のためならず」を誤解せず、親切が自分にも返るという文脈に置けるか
2

文ごとの解説

第 1 文

人間,損得勘定で動くとろくなことがない。

つまずきやすいところ
  • 「人間」は human beings と置くより、一般論の we で始めると自然です
  • ここが山場です。「損得勘定」は profit and loss のような名詞にせず、what we may gain or lose と中身を開きます
  • 「〜で動く」は move ではなく、考えが行動を guide すると書けば意味が通ります
  • 「ろくなことがない」は nothing good happens と断言するより、things rarely go well と一般的傾向にするのが合います
発想の切り替え

最初の文は文章全体の主張です。「損得勘定」にぴったりの難しい名詞を探す必要はありません。得るものと失うものを考えることだ、と内容を what 節で説明すれば十分です。また「人間」を名詞で立てると大げさになりやすいので、読み手を含む we を使い、行動の基準を guide every action と言葉にします。

訳例
標準

When we let thoughts of what we may gain or lose guide every action, things rarely go well.

別解

Things seldom turn out well when people act only after asking what they will get in return.

この文でやりやすい誤り

「損得勘定」を calculation of profit and loss と直訳する

減点 大
When people move by calculation of profit and loss, no good thing happens.
When we let thoughts of what we may gain or lose guide every action, things rarely go well.

move by は人の行動原理を表す言い方になっておらず、calculation も実際に数字を計算する感じが強くなります。「何を得て何を失うかばかり考える」という意味が伝わりません。

「ろくなことがない」を強すぎる全否定にする

減点 小〜中
Nothing good ever happens to such people.
Things rarely go well when people act that way.

元の文は経験から述べる一般的傾向で、未来永劫よいことが一つもないと断言しているわけではありません。ever を伴う全否定は筆者の主張を強くしすぎます。

この文の言いかえ
損得勘定で動く
let thoughts of what we may gain or lose guide us中身を what 節に開くので、意味が最も明確です
act only for our own gain「得」に重点を置く簡潔な形です
move by profit and loss日本語の語を置き換えただけで、行動原理を表す英語になりません
ろくなことがない
things rarely go well一般的傾向として自然に書けます
things seldom turn out well結果がうまくいかないことを表せます
nothing good ever happens全否定が強すぎるので、この文では使わないほうが安全です
第 2 文

あとで見返りがあるだろうと便宜を図っても,恩恵を受けた方はコロッと忘れているものだ。

つまずきやすいところ
  • 「見返り」は reward より、expect something in return という決まった形が安全です
  • 「便宜を図る」は arrange convenience ではありません。do someone a favor と動作にします
  • 「〜ても」は even if で、期待と結果が食い違うことを示します
  • 「恩恵を受けた方」は the person who received our help と説明すれば難しい語はいりません
  • 「コロッと」は suddenly より completely が合います。忘れ方のあっけなさを表せます
発想の切り替え

日本語では「見返り」「便宜」「恩恵」と名詞が続きますが、英語でも名詞を三つ並べると硬くなります。こちらが favor をし、相手が help を受け、相手が what we did を忘れる、という三つの動作に組み直してください。even if を先に置けば、「期待して親切にしたのに忘れられる」というずれも自然に出せます。

訳例
標準

Even if we do someone a favor because we expect something in return later, the person who received our help may completely forget what we did.

別解

We may help someone because we think they will repay us later, but that person may soon forget how we helped them.

この文でやりやすい誤り

「便宜を図る」に convenient を使う

減点 大
Even if we make someone convenient, they may forget it.
Even if we do someone a favor, they may forget what we did.

convenient は物事が人にとって便利だという形で使い、人を convenient にするとは言いません。ここでは相手のために何かをしてあげるという動作です。

in return の in を落とす

減点 中
We help them because we expect something return later.
We help them because we expect something in return later.

「見返りに」は in return という決まった形で表します。in を落とすと、something と return がつながらず、文法的に正しい英文になりません。

恩恵を受けた人を受け身の benefit で崩す

減点 中
The person who was benefited by us may forget it.
The person who received our help may forget what we did.

benefit は通常、The person benefited from our help や Our help benefited the person の形です。ただし、この問題では received our help のほうが簡単で自然です。

この文の言いかえ
便宜を図る
do someone a favor高校範囲で書ける基本表現です
help someone具体的な内容が不要なら、これでも十分です
make someone convenient人を convenient にするとは言わないので使えません
見返り
something in return親切へのお返しを広く表せます
the favor returned later少し説明的ですが意味は伝わります
a reward賞や報酬の響きが強く、人間関係の返礼とは少しずれます
第 3 文

その一方で,善意で助けた相手がずっと感謝していて,こちらが本当に困ったときに恩に報いてくれることもある。

つまずきやすいところ
  • 「その一方で」は On the other hand で、第2文との対比をはっきり示します
  • 「善意で」は out of kindness とすると、見返りを求めない動機が伝わります
  • 「ずっと感謝していて」は remember how grateful they felt と節に開くと、感謝の強さと継続を表せます
  • 「こちら」は this side ではなく、一般論の we / us に戻します
  • ここが山場です。「恩に報いる」は repay a kindness と一語で固めず、return the favor when we are in trouble と場面ごと書きます
発想の切り替え

第2文との違いは、親切の動機と、相手の記憶が続く点です。On the other hand を置いたあと、out of kindness で動機を示し、how grateful they felt で相手の気持ちを節に開きます。「恩」は同じ favor が返ってくると考えればよく、return the favor で十分です。困る時点は未来に限らない一般論なので、現在形でまとめます。

訳例
標準

On the other hand, someone we helped out of kindness may remain grateful for what we did and return the favor when we are truly in trouble.

別解

Yet a person we helped simply because we wanted to be kind may remain grateful for our help and help us when we really need it.

この文でやりやすい誤り

「ずっと感謝している」を thank us forever とする

減点 中
The person whom we helped with good will may thank us forever.
Someone we helped out of kindness may remain grateful for what we did.

thank us forever では、相手が感謝の気持ちを持ち続けるのではなく、永遠にお礼を言い続ける意味に寄ってしまいます。ここでは remain grateful で感謝の気持ちが続くことを表します。

「こちら」を this side と訳す

減点 大
They help this side when this side is in trouble.
They may help us when we are truly in trouble.

this side は試合のこちら側や対立する陣営を指す言葉です。ここでは親切をした自分たちを指すだけなので、we / us で受けます。

「恩に報いる」を pay the kindness とする

減点 大
They may pay our kindness when we are in trouble.
They may return the favor when we are in trouble.

pay は代金や借金には使えますが、kindness をそのまま目的語にはしません。これでは親切に料金を払うように聞こえます。

この文の言いかえ
善意で
out of kindness見返りではなく親切心が動機だと明確です
simply because we wanted to be kind語が出ないときは説明して大丈夫です
with a good mind日本語の「よい心」を直訳した不自然な形です
恩に報いる
return the favor短く自然で、この場面に最も合います
help us in returnfavor が出なければ help で説明できます
repay a kindness正確ですが、return the favor のほうが書きやすいです
requite the kindness非常に古く難しい語なので、無理に覚えなくて大丈夫です
第 4 文

「情けは人のためならず」というが,まさに人の世の真理を突いた言葉である。

つまずきやすいところ
  • ことわざを英語の既成表現に置き換えようとせず、意味を説明するほうが安全です
  • 「人のためならず」を kindness is not only for the sake of others とし、「親切は無益だ」という誤読を避けます
  • 「というが」は People say that で自然に導入できます
  • 「まさに」は exactly を入れ、前の具体例がことわざを裏づける流れを残します
  • 「人の世の真理」は what is true about how people live together と二つの節に開けます
発想の切り替え

このことわざは「人に情けをかけるな」という意味ではありません。親切は巡って自分にも返る、という前の二文のまとめです。英語の似たことわざを無理に探すより、kindness is not only for the sake of others と意味をそのまま説明してください。「人の世の真理」も truth of the human world と直訳せず、人が共に生きる上で何が本当か、と what と how の節に開きます。

訳例
標準

People say that kindness is not only for the sake of others, and this saying shows exactly what is true about how people live together.

別解

There is a saying that kindness to others will one day help the giver, and it tells us something important about how human relationships work.

この文でやりやすい誤り

ことわざを逆の意味に訳す

減点 大
We should not be kind to other people.
Kindness is not only for the sake of others; it may help the giver one day.

「情けは人のためならず」は、人に親切にしてはいけないという意味ではありません。親切は巡って自分にも返るという意味なので、この訳では文章全体と反対になります。

「真理を突く」を hit the truth とする

減点 中
This saying hits the truth of the human world.
This saying shows a basic truth about how people live together.

hit the truth は自然な組み合わせではなく、human world も人間以外の世界と対比するように聞こえます。人間関係について何が本当かを示す、と説明するほうが確実です。

この文の言いかえ
情けは人のためならず
Kindness is not only for the sake of others.日本語の形を残しつつ、誤解も避けられます
Kindness to others may help the giver one day.ことわざの意味を説明する安全な形です
One good turn deserves another.近い英語のことわざですが、知っていれば使える程度で、覚える必要はありません
Do not be kind to others.日本のことわざを誤解した逆の意味なので使えません
人の世の真理を突く
show a basic truth about how people live together抽象的な「人の世」を how 節で具体化できます
tell us something important about human relationships説明的で自然な別案です
hit the truth of the human worldhit と truth の組み合わせも human world も不自然です
3

模範解答

標準解

まずここを目標にhow節 ×1 / what節 ×496語

When we let thoughts of what we may gain or lose guide every action, things rarely go well. Even if we do someone a favor because we expect something in return later, the person who received our help may completely forget what we did. On the other hand, someone we helped out of kindness may remain grateful for what we did and return the favor when we are truly in trouble. People say that kindness is not only for the sake of others, and this saying shows exactly what is true about how people live together.

「損得勘定」「した親切」「感謝が続くこと」「人の世の真理」を、それぞれ what we may gain or lose、what we did、remain grateful for what we did、what is true about how people live together と節に開いています。難しい名詞を探さなくても、期待してした親切は忘れられ、善意の親切は思わぬ時に返るという対比を落とさず書けます。ことわざも直訳だけにせず、前の内容につながる意味を示しました。まずはこの形を目標にしてください。

説明を足した解

書けなかったときの逃げ道how節 ×2 / what節 ×190語

Things seldom turn out well when people act only after asking what they will get in return. We may help someone because we think they will repay us later, but that person may soon forget how we helped them. Yet a person we helped simply because we wanted to be kind may remain grateful for our help and help us when we really need it. There is a saying that kindness to others will one day help the giver, and it tells us something important about how human relationships work.

こちらは「便宜」「恩恵」「恩に報いる」を一語ずつ訳さず、help を中心にして場面を説明した版です。何を期待したか、どのように助けたか、相手の感謝が続いて困ったときに助けてくれることを順に書いているため、少し長くても論理は明確です。ことわざも kindness to others will one day help the giver と意味を明示しました。決まった英語のことわざを思い出せなくても、説明で押し切って大丈夫です。

6

他の問題にも使える形

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what S may gain or lose最重要

損得の中身を節に開く

「損得」「利害」のような抽象的な名詞は、何を得て何を失うか、と動詞を使って説明できます。難しい名詞に頼らず、意味を採点者へ確実に届けられます。

損得勘定 → thoughts of what we may gain or lose
選択の利点を考える → think about what we can gain from the choice
Even if S V, S may Vよく使う

期待と結果のずれを示す

「〜しても、結果はそうならないことがある」を書く形です。譲歩のあとに may を置くと、一般論を強く断言しすぎずに済みます。

便宜を図っても忘れられる → Even if we do someone a favor, they may forget it.
急いでも間に合わないことがある → Even if we hurry, we may not arrive in time.
out of + 気持ちを表す名詞よく使う

行動の動機を書く

because を使わず、「その気持ちから行動した」と簡潔に示せます。善意と見返りを求める行動を対比するときにも便利です。

善意で助ける → help someone out of kindness
好奇心から質問する → ask a question out of curiosity
remember how + 形容詞 + S felt最重要

感情の程度を節で表す

「感謝の気持ち」「驚きの大きさ」のような名詞のかたまりを、実際にどう感じたかという how 節にできます。

どれほど感謝したか覚えている → remember how grateful they felt
どれほど不安だったか思い出す → remember how worried I felt
return the favor / help S in returnよく使う

親切へのお返しを書く

「恩返し」の難しい一語を探さずに書ける形です。favor が思い出せなければ help in return と説明しても意味は十分伝わります。

困った時に恩に報いる → return the favor when we are in trouble
今度は私が助けます → I will help you in return.
what is true about how S V最重要

抽象的な真理を二段階で開く

「〜の真理」を truth of ... と名詞で重ねず、何が本当なのか、物事がどう動くのかと節に開けます。随筆の結論で使いやすい形です。

人の世の真理 → what is true about how people live together
社会がどう変わるかについての事実 → what is true about how society changes
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この問題の語彙

表現意味ひとこと
gain得るもの、利益ここでは動詞で使い、what we may gain と節にすると書きやすいです
lose失う過去形・過去分詞はどちらも lost です
do someone a favor人のために便宜を図る、親切をするdo a favor for someone も使えます。make a favor にはしません
in returnお返しにexpect something in return / help someone in return の形で使います
out of kindness親切心から、善意でout of は場所の外だけでなく、行動の動機も表せます
grateful感謝している人を主語にして be grateful to 人 for 物事、または how grateful S felt とします
return the favor親切に報いる、恩返しをするreturn a favor も可能ですが、すでに出た親切を指すこの文では the が自然です
for the sake of〜のために利益や目的のためという意味です。for sake of と冠詞を落とさないでください
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出題の傾向

京大の第III問は、2022年の車窓からの眺め、2023年のこの問題、2024年の無知と学び、2025年の顔と心の関係と、身近な経験から一般的な真理へ進む随筆が続いています。特に2023年は、見返りを求めた行為と善意の行為を対比し、最後にことわざでまとめる構成です。抽象語を無理に一語へ置き換えるより、誰が何を期待し、相手がどう反応するかまで動詞で書く力が問われています。

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